ユーザーボイス

PSSの自動核酸抽出装置ユーザー様に、装置の使用経験についてインタビュー形式でお話を伺いました。

(本インタビューは2008年11月に実施させていただきました。)

独立行政法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
遺伝子転写制御研究グループ
高木 優 先生(写真)元吉 研究員
独立行政法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門のホームページ

導入・メリットデメリット

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まず初めに、遺伝子転写制御グループ様の現在のご研究内容と、自動核酸抽出装置を導入された経緯と目的についてお聞かせいただけますか?
高木先生

私たちのラボではモデル植物のシロイヌナズナを用いています。シロイヌナズナには約2万6千個の遺伝子があります。植物のいろんな機能は、遺伝子の働きによって決まっています。ポストゲノムの時代では、遺伝子の機能を明らかにすることによって、いろんな植物の機能をコントロールしようという流れがあります。しかし、植物の機能をコントロールする為には、遺伝子の機能がまず分からなくてはいけない。そこで遺伝子の機能解明が今の研究の主流です。約2万6千個の遺伝子の中でも、特に約2千個の転写因子という遺伝子の機能解明を私たちのラボでは行っています。

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自動核酸抽出装置を導入された経緯と目的については、どうでしょうか?
高木先生
転写因子というのは、約2万6千個ある遺伝子のスイッチを入れる、いわゆるマスターレギュレーターを働かせる遺伝子です。 それら転写因子の機能を解明する為に、植物体に色々な遺伝子を導入したりするのですが、その際かなりの数の植物体を作る事になります。そして、作った植物体に導入した遺伝子が入っているかを調べたりします。また、導入する遺伝子のクローン を沢山作るのに大腸菌を使いますが、大腸菌の方でも遺伝子が入っているかどうか調べなくてはいけません。多数の検体を処理するために、ハイスループットの核酸抽出機が必要となり、現在使用しています。自動核酸抽出装置の使用目的は大きく2つあって、植物体からゲノムDNAとRNAを抽出することです。
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続いて、自動核酸抽出装置を導入されての効果と感想をお願いいたします。
元吉研究員

私は大腸菌からのプラスミドDNA抽出と、植物体(シロイヌナズナ)からのゲノムDNA抽出に使用しているのですが、抽出にかける時間は短くなりましたね。処理するサンプル数にもよりますけど、数が少なければ手でやったほうが早く終わりますが、今の装置は1度に6~12サンプルを処理することができるので、その範囲ですと装置でやったほう早く、時間を有効に使うことができます。それを超えるサンプル数の場合は2回装置を動かさないといけませんが。また、自動化されているのでその間に別の事ができるということもメリットです。導入効果が大きいと私が思っているのは、毎回コンスタントに同様の抽出物が得られるというところですね。

高木先生
再現性が良いというけれど、DNAは綺麗に抽出できているの?
元吉研究員
そうですね、綺麗に採れます。若干マニュアル法に比べて濃度は薄い感じではありますが、それでも十分量抽出できています。
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自動化のメリットとして、サンプルの"標準化"についてはいかがでしょうか?
元吉研究員
そうですね、私としてはそれが一番大きいと思います。
高木先生

仕事として、得られたデータが凸凹していると非常にやりにくい。自動化の前提として、装置は再現性が高く、標準化できるよう なものでないといけない。また、大規模なロボット(設備)という自動化もあるが、私たちのラボではそこまでは必要ありません。中規模ラボなので、そういう意味では6~12サンプルという処理能力は使いやすいサイズだと思う。もう少しあってもいいかとも思いますが、逆にそれだけサンプルも用意しなければならないですし、後工程(シークェンサー等)の処理能力も関係してきます。

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そういった中で、導入するシステムの規模として一度に多検体(例えば96サンプル)処理できる物の方が良いのか、少数処理できるものを複数台使用する方がよいのか。このあたりについては、どうでしょうか?
高木先生
ラボレベルだと後者、小数検体処理装置を複数台のほうがいいですね。なぜかと言うと、工場のようなレベルでやるのであれば話は違いますが、私たちのようなラボの場合、いろいろな人が様々な実験をしています。研究者が個別のサンプルを用いるので、小数検体処理装置を複数台の方が良いですね。今回も抽出装置を2台導入した理由はそこにあります。
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他に装置をお使いになられて、お気付きの点やご要望がございましたらお聞かせ下さい。
元吉研究員
どうしようもないところですが、プラスチック消耗品のゴミがいっぱい出るところですね。毎回捨てるのが大変かな。あとは、磁性体粒子が抽出物の中に少し混入してくる。ゲノムを取った時はそうでもないが、プラスミドDNAを取った時、ビーズの混入が見受けられる。ただ、遠心分離して上清を取れば後工程に問題はありません。
高木先生
貴社のラボで一度チェックしてもらえばと思います。

実行程における感想

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ここから少し技術的なお話になりますが、抽出したプラスミドDNAと植物体由来のゲノムDNAはどういった後工程に使用しているのでしょうか?
元吉研究員

主にゲノムDNAを採ったあとは、PCRに使っています。これは、目的の遺伝子が入っているか どうかを調べるためです。PCRで遺伝子を見つけることができるのですが、今までゲノムDNAを抽出すというのは結構手間だったですよね。プラスミドDNAの方は、抽出後にシークェンサーで遺伝子配列を読みます。そのあとは遺伝子導入試薬を用いて植物体に遺伝子導入し、植物体を造るという流れになっています。

高木先生
プラスミドDNAについてはまずはシーケンスできるレベルかどうかが重要です。
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続いて、導入目的の一つでもあります、RNA抽出についてお聞かせ下さい。
高木先生
動物組織や培養細胞では比較的簡単に出来るが、多糖類(ポリサッカライド)を多く含む植物体はRNAを抽出するのがかなり厄介。それが装置で自動化できるようになれば非常に有効だと思う。あとは多検体処理が可能になれば良いと思う。そういう意味では規模の大きいラボがこういう仕事に装置を使えればいいのではないだろうか。
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植物体から抽出したRNAはどのような後工程に用いているのでしょうか?
高木先生
まず、RNAを取る目的の一つに、遺伝子がどれだけ発現しているか調べるという事がある。さらに、マイクロアレイのプローブに使用します。
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網羅的解析を行うということでしょうか?
高木先生
そうです。マイクロアレイを使って全体の網羅的な発現量を調べます。なので、かなり綺麗なRNAが取れないといけない。RNAからcDNAを合成し、RT-PCRで個別の遺伝子の発現を見るのと同時に、マイクロアレイを使うというところが一番大きな利用目的です。導入した遺伝子で植物体の形(表現型)が変ったり、応答が悪くなったりした時に、どんな遺伝子が働いているのか個別に、網羅的に把握する必要があります。
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植物体の研究ではマイクロアレイを良く使うのでしょうか?
高木先生

頻繁に使われています。ただ、Chipと解析に費用がかなりかかるので、頻繁といっても規模の大きいラボでよく使われていると思います。しかし、論文を書く上では必要な仕事と言えます。また、以前はアレイ解析をたくさんやっている大きなラボと共同研究で解析を行ってもらっていましたが、設備を導入したので今は自分たちのところでやっています。そういった意味でも装置を使ってRNAが取れるようになると非常に楽になります。

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そういった中で、実際に弊社の自動核酸抽出装置を使って植物体からのRNA抽出をお試しいただきましたが、使用経験としてご感想等お聞かせ下さい。<自動核酸抽出装置によるシロイヌナズナからの Total RNA抽出・精製>
高木先生
上手く抽出できていると思いますよ。RT-PCRの結果を見ると、特異性があって非常に良いですね。 この結果がコンスタントに出るかどうかは、まだもう少し検証する必要はあると思いますが、このレベルだったら非常に満足のできるレベルですね。2つの組織特異的遺伝子(NST3、SUPERMAN)の特異性も非常に良く出てます。
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弊社の装置ではDNase処理もプロトコルに含めておりますので、DNAのコンタミを最小限に抑えるよう工夫しています。
高木先生
DNAがコンタミしていると、RT-PCRの結果としてバンドのパターンが違うものになります。そういう意味でも特異性があるということは、RNAだけになってるんじゃないかと思います。ただ、マイクロアレイのプローブとして使用していないのでまだ検討は必要ですね。RT-PCRの結果を見る限り、問題ないRNAになっていると思います。ただ、厄介な事に、組織などの抽出し難い部位、例えばムコ多糖類が多いところとか沢山あるから、前処理のやり方を色々工夫して提案して欲しいと思います。
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また、一方でRNAを用いた「遺伝子の発現解析」の市場性は拡大していくとお考えですか?
高木先生
機械化とかは関係無く、遺伝子の発現解析をするということは、その遺伝子に関連する別の様々な遺伝子を解析し、ピンポイントで機能解明するというところにつながります。つまり、そういった下流の遺伝子の機能解析をして、どんな遺伝子が動いているか調べる必要があります。遺伝子の発現解析というのは学術的にも応用的にも有用なツールであり、様々な分野で今後必要になってくる仕事だと思います。ニーズも増えてくると思います。
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それでは最後に、自動核酸抽出装置について高木先生のご意見をお聞かせ下さい。
高木先生

導入に際しては、今後どのように仕事を進めていくか、という事にかかってくる。あまり大きなものを買うと次、融通が利かなくなる。ラボは進化していくものですから、そういう意味で核酸に関係した色々なアプリケーションがマルチでできるというのはラボとして非常にありがたいと思います。

装置を導入したポイントとして一番大きいのは、植物体から簡単にRNAを取れる装置はほとんど無いので今回はそれがチャレンジャブルだった。まだ検証を行わなければいけないが、如何に効率良く大量に抽出できるか、難しいとは思うが上手く改良していってもらいたいと思う。それができるようになってくると、研究者に抽出以外の仕事をさせられるし、場合によってはエキスパートも必要なくなってくるのでトータルなコストダウンにつながる。モレキュラーバイオロジーが進んだ背景には、非常にプロトコールが確立され、誰にでも出来るようになった事が大きい。だからRNAの世界でもそういうのができるというのは、非常にチャレンジャブルだと思う。

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貴重なご意見ありがとうございます。本日はお忙しい中インタビューをお受け頂きありがとうございました。
高木先生
こちらこそどうも。

写真提供:高木先生

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