PSSの自動核酸抽出装置ユーザー様に、装置の使用経験についてインタビュー形式でお話を伺いました。
(本インタビューは2009年4月に実施させていただきました。)
弊社は"微生物の同定"というサービスをメインに行っています。その中で得られてきた知識等を活かして、最近では腸内フローラ(細菌叢)の解析を始めています。
従来の手法では微生物の同定は分離・培養した菌が対象となりますが、これまで分離され培養されている細菌は、地球上に存在している全細菌の数%に満たないと考えられています。そこで現在は、PCR技術などを用いることで、培養せずに環境中から直接DNAを抽出し、どのような細菌叢が存在しているのかを調査する『遺伝子による微生物群集構造解析』という手法が用いられています。
弊社ではその作業を受託サービスとして行っています。立ち上げ当初(6年程前)から、環境中の土壌や水をはじめとする様々な環境のサンプルからDNAを抽出して、微生物群集構造解析を行ってきました。当時はこういった微生物群集構造解析サービスを行っている企業も無く、先端的な事業でした。この事業が安定化し、同時に迅速・正確・安価に解析を行う手法の開発も進め、DNAのフラグメントデータを元に微生物群集構造解析を行う「T-RFLP」法の改良と共に、その解析対象を"ヒト糞便"まで広げています。
糞便からのDNA抽出は、始めた当初の手法では抽出されたDNAのPCRが上手くいかないことがあり、色々と試行錯誤していました。長島先生との共同研究で得られた技術の蓄積もあり、最適な試薬・プロトコールを確立する事ができ、解析をスムースに行うことが出来るようになりました。問題はその技術の省力化というところでした。実際に短期間に多量の検体(数千検体)を処理しなければならない事態が発生し、抽出工程の自動化の必要性がでてきました。
選定した条件としては、
で、これらを検討して、他の装置メーカーを含め、何機種か試験的に使用してみました。それらの条件を高い基準でクリアをしたのが御社の装置だったのです。あとは国内のメーカーさんということで、顧客サポートにも期待するところもありました。
自動化装置を導入した効果は非常に大きかったです。試薬コストは従来法とほとんど変りませんが、抽出にかける時間・労力(人件費)は大きく変りました。
具体的には約2時間かかっていた作業時間が約45分になりました。加えて手作業では今まで5分、10分といった装置にかける細切れの時間があったのに対して、自動抽出装置では前処理後、約30分間は他の仕事が出来ますので作業効率も上がりました。多数の検体から、容易にDNA抽出することが可能になりましたので、受託分析でも100検体程度の検体では驚かなくなりました。また、特段のトレーニングをせずとも使用できる使い易さも良いと思います。
1つはサンプル量として100µl使用する訳ですが、最終的な溶出液量を50µl程度に濃縮できると良いかと思います。あとは溶出液へ磁性粒子が混入する事があります。遠心分離して上清を使用すれば後工程に問題はありませんが、使う側としては気になるところではあります。
そうですね、今後、弊社のT-RFLPによるヒト腸内フローラ解析事業が発展し、健康診断等に関わる事ができればかなり幅が広がるのではないかと思います。ヒトの腸内フローラは個人差が大きく、そういう中で多数の検体を取り扱うとなれば、自動化装置というものは非常に有用だと考えます。
あとは家畜の腸内フローラについても研究を含めて近年注目されておりますので、この分野への応用も期待できるのではないでしょうか。ヒトに関わらず動物の腸内細菌は、各個体によって大きな違いがあります。そのため研究をしようと考えると、ある程度まとまった検体数の解析が必要となります。またヒト腸内細菌の場合、メタゲノム解析が国際的にも急速に進められており、どのような遺伝子を持った微生物が、何種類いるのかといったことが明らかになってきています。
今後は機能解析が期待されていますが、その分野でもRNAを用いた発現解析など展開分野が広がると考えています。
ヒトの腸管内には様々な細菌が常在し、複雑な腸内フローラを 形成している。ヒトが毎日排泄する糞便(固形分)のほぼ3分の1は 生きた細菌で占められ、その大部分は培養が困難とされていた嫌気性細菌(酸素のあるところでは生育できない細菌)であり、詳細な研究により1人のヒトの腸内には実に300から400種類、その数たるや糞便1グラムあたり約1000億個の細菌が棲みついている。
腸内フローラの構成は従来、好気性菌と嫌気性細菌、常在細菌と一過性細菌という捉え方がなされてきたが、腸内フローラの研究が宿主との関わりを重視するようになり、それぞれの腸内フローラの構成と機能などについて詳細に解明することが求められている。また、これらの腸内フローラはお互いに共生または拮抗関係を保ちながら、摂取された食物や消化管に分泌された生体成分を栄養素として絶えず増殖しては排出され、宿主の健康・疾病と極めて密接に関係している。
出典 『腸内フローラと健康』 (財)日本ビフィズス菌センター 監修/光岡知足 編 1998年